MBDについて思うこと
iPXの飛び道具担当?の加藤です。
当社では何人かのメンバーが「MBD」に関連する業務を担当しています。
システム設計、制御ソフトウェア開発、車両運動シミュレーション、MILS、HILS、3Dモデルを使ったシミュレーションなど、様々な現場でMBDに関わっています。
私は実際の開発に携わってはいませんが、客先を訪問してMBDの取り組みについて話をする機会があります。
そこで、このエントリーではその「MBD」について最近感じていることを書いてみようと思います。
MBDとは何か?
「MBDって何ですか?」と聞かれることがありますが、最近はMBDという言葉が浸透してきたのでこの質問は少なくなってきた気がします。
MBDの正式名称は「Model Based Development」です。日本語では「モデルベース開発」と呼び、モデルを使った開発手法やプロセスの事を指します。
ここで「モデル」と一括りで呼んでいますが、3D CADが普及している昨今では三次元モデル、解析モデルがすぐ思い浮かぶ場合もありますし、ソフトウェアの領域ではUMLが古くからモデリング言語として使われていたり、ビジネスプロセスを表記するためのBPMN、システムを表現するためのSysMLやプラントモデルなども「モデル(の表記法)」です。
これらの様々なモデルを組み合わせて開発プロセスを成立させることをモデルベース開発(以下MBD)、と呼んでいます。
モデルを使って設計することがMBDなのではなく、モデルでプロセスを回していく事が本来のMBDで実現したい姿だと考えています。
究極的には、開発プロセスの中で必要な情報は全てモデルとして表現する、ということを目指すのですが、実際にその領域まで到達している企業や組織はまだ無いと思います。
MBDのねらいは?
上記の通り、情報をモデルとして表現する訳ですが、その狙いは、
- 確実な共通理解の成立(人対人、人対コンピュータ)
- 知的資産の再利用性を向上
- シミュレーションによる検証の実現(リアルからバーチャルへ)
などがあります。
現在はシミュレーション技術としてのMBDが注目されていますが、実際は上記の1や2が大事なところではあります。
特に1の共通理解を担保するには、ただモデルを作るだけではなく、相互理解を確実にするためにモデルの作り方のお作法を統一(標準化)する事が必要となります。
現在はまだ企業内だけのモデル流通が行なわれていますが、サプライチェーンの中でモデルが流通するというニーズも高まりつつあります。
MBDは誰のためのものか?
「MBDは誰のためのものですが?」「MBDは誰が得をするものですか?」という質問も受けます。
基本的にはモデルは全員のためにあるという考えですが、誰が得をするか(楽になるか)という点では「モデルを作る側」よりも「モデルを受け取る側」にメリットが多いと考えます。
- 開発プロセスの前工程にいる人たちより後工程の人たち
- 新規開発よりも継続開発
モデルを作る側が大変だからMBDはやりたくない、という話を聞きますが、実際もモデルを作る側は負担が増えることが多いです。
しかし、一度モデルを作ってしまえば、それを様々なシミュレーションや担当者間のコミュニケーションに利用する事ができるので、開発プロセス全体で見ると期間短縮や品質の向上が期待できます。
どうやってMBDを立ち上げたら良いのか?どこから始めるべきか?
「ゼロからMBDに取り組むには、どこから始めたら良いですか?」という質問も良く聞かれます。
しかし企業や組織の事情はそれぞれ異なるため、ここから始めるべき、という一般的な答えはありません。強いていうならば「能力の高い人、MBDに適応できる人がいるところから始める」ということでしょうか。
新たな取り組みで一番大事なのはやはり「人材育成」です。シミュレーションの道具を買ってきたらMBDが出来るようになる、というのは当然ながらあり得ません。
また、上手く立ち上がって企業や組織にMBDが浸透した事例を見てみると、
- 会社や組織としてMBDに取り組む、という方針をしっかり立てる
- MBDによって何を実現したいのか、目標とロードマップを作る
- 第一線で活躍しているエキスパートをプロジェクトに投入する
- 3年〜5年程度、じっくりと取り組む
という点は共通しています。
うちの製品をモデル化できますか?
新たな引合いでお客様を訪問したとき、良くこのような質問を受けます。
答えはYESでもありNOでもあります。
その理由としては、「目的に応じて製品のモデル化手法が異なる」ためです。
現在の技術では、製品の実物をシミュレーションで100%再現することは非常に難しいため、目的に応じて使用する技術(=道具)を使い分ける必要があります。
例えば、「構造を検討したい」「電気的な振る舞いを確認したい」「制御ソフトウェアの動作を確認したい」「ユーザーの使用環境を再現したい」「製品の劣化、耐久背雨声を確認したい」など、様々な目的に応じてモデルの詳細度や使用するソフトウェアを選択する必要があります。
一般的には、開発プロセスのどこの段階でどんな評価をしたいのか、という話を伺ってから具体的に使用する技術を選択してモデル化する、という進め方が必要です。
おわりに
業界や企業によって、MBDに対する取り組み状況は様々です。
航空機、自動車業界ではかなり先進的な取り組みをしていますが、業界の垣根がどんどん亡くなりつつある状況ですので、これらの業界以外の企業もMBDの状況を把握したり、MBDに対して準備をしておく必要はあると考えています。