「安全」と「安心」
約半年ぶりに登場します、加藤です。
今回は「安全」と「安心」について取り上げてみたいと思います。
はじめに
テスラの自動運転車(実際は自動運転ではなく運転支援機能なのですが)が死亡事故を起こしたり、豊洲市場の地下が空洞になっていたり、というニュースが世間を騒がせていますが、どうも一般向けのニュースでは安全と安心を混同したまま語られているように感じます。
では「安全」と「安心」の違いは何でしょうか?
この二つの言葉の意味を説明できますか?
弊社も製造業、特に自動車業界に関わる企業と仕事をさせて頂いていますので、正しく理解している必要があります。
「安全」と「安心」の違い
「安全」の定義はISOの中では用語として定義されています。
Safety
freedom from risk which is not tolerable
(許容できないリスクがないこと)Risk
combination of the probability of occurrence of harm and the severity of that harm
(危害の発生確率とその危害の重大性の組み合わせ)
(ISO/IEC Guideより引用 https://www.iso.org/obp/ui/#iso:std:iso-iec:guide:51:ed-3:v1:en)
ここで重要なのは「許容できないリスク」という表現でリスクの範囲を限定していることです。
リスクの定義も合わせて考えると、確率が低くて重大ではない危害まではカバーしていない、という事が分かります。
「安全」は「完全」ではないのがポイントです。
一方で「安心」については標準的な定義はありませんが、安全と対比しておおよそ以下のように定義されています。
安全:
- 客観的な事実
- 科学的に評価が可能
- 許容できないリスクがない状態
安心:
- 主観的な感情
- 科学的に(外部から)評価が出来ない
- リスクに対する寛容さは個人に依存する
安全はモノサシで測ることが可能ですが、安心は測ることが出来ない上に、安心かどうかの判断は完全に個人にゆだねられています。
「安心」できないのはなぜか?
上記の通り、安全と安心は異なる概念です。
多くの製造業ではISO規格などの品質マネジメントプロセスに則ることで「安全」を担保しています。
一方で一般の消費者にとって重要なのは「安心」です。
消費者に「安心」してもらうためには、製品を提供する側が「安全」であることを正しく説明することが必要です。
しかし、「安心」はは主観的な感情なので、全ての人に安心してもらうことは困難です。
なるべく多くの人に安心してもらうためには、以下のギャップを埋める事が必要となります。
その1:知識量のギャップ
ほぼ全ての事象において、説明する側は専門家であり、説明される側は素人です。
当然ながら、専門家と素人は持っている知識の量が異なる上に、素人の中でも知識量にもバラツキがあります。
また、
- 知識が無い人は、理解できないので不安に思わない
- ある程度知識がある人は、中途半端に理解するので不安度が高まる
- 十分な知識を持った人は、正しく理解できるので不安度は低い
といった傾向があるそうです。
その2:リスク感度のギャップ
安心と感じる基準は個人差があります。
さらに、特に不安度が高い人達には「ゼロリスクを求める」という傾向があります。
上記の「安全」の定義にあるように、基本的にリスクはゼロではありません。
想定できない範囲はもちろんですが、致命的でない問題については許容することがあります。
発生確率の非常に低い現象や危険度の低い現象など、小さなリスクまで対応するにはそれ相応のコストがかかります。
当然、そのコストは製品やサービスの価格にも反映されます。
この2つのギャップを埋めるためには、説明する側が相手のリテラシーを考慮した上で、説明の方法を工夫する必要があります。
消費者の安心を獲得するために
安心というのは信頼の上に成り立つもので、これらは一朝一夕で獲得できるものではありません。
日ごろから
- 正しい情報発信
- 的確な顧客サポート
- サービス、製品力の向上
に継続して取り組むことで、徐々に信頼感が蓄積されていくものです。
弊社では上記の取り組みの一つである「製品力の向上」を実現するための支援として、
- 開発プロセス全体の改善
- 新たな設計手法の導入
- 開発業務を支援する仕組み作り
をメニューとして取りそろえています。