iPX社員によるブログ

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ダイナミック・ケイパビリティのすゝめ

はい、読者の皆さん、注目!(なんだー!)

私、誠に僭越ながら自己紹介をさせて頂きます。愛知県県立○○高等学校、○○大学出身!(名門ー!)

現在、iPX入社半年、姓を大河内、名を慎也と申します。以後お見知り置きを!


どうも皆さん初めまして。大河内と申します。

前職では自動車部品関連の工場で主に生産管理業務に従事しておりました。
生産管理とは何なのか。ざっくりまとめますと、工場での生産活動が円滑に行われるための司令塔、つなぎ役みたいな役割です。
私はその中で、製品管理、在庫管理、物流管理を担当しておりました。
夏場は暑さ地獄、冬場は寒さ地獄という環境で走り回っていたため、現在の空調の効いたオフィスが快適過ぎてヤバいです。
まぁその代わり、全然動かなくなったので、お腹周りも相当ヤバいことになっていますが…

さて、早いもので入社して半年、初ブログ記事となるわけですが、ネタ探しに色々ググっていたところ、タイムリーな記事を発見しました。*1


経済産業省は5月29日、日本の製造業のいまと将来見通しをまとめた報告書「ものづくり白書」の最新版を公開した。
新型コロナウイルス感染症の拡大、米中貿易摩擦地政学リスクの高まりなど、先行きが見えず、不確実性が当たり前となっているなかでは、ものづくり企業は自ら変革する力(ダイナミック・ケイパビリティ)が重要になるとしている。
ものづくり白書は、経済産業省文部科学省厚生労働省の共同執筆による日本製造業の報告書で、今回で20回目の発行となる。これまでもインダストリー4.0やIoT、ロボット、AI、デジタルトランスフォーメーション(DX)などその時々のトレンドを、日本での状況、実際の現場での取り組み事例を交えて解説してきた。
20年版では、不確実性が高まる世界への対応力、競争力の源泉となるのは、製造業の「企業変革力(ダイナミック・ケイパビリティ)」であるとした。それを身につけるにはデジタル化が有効で、デジタル化を通じて製造業の設計力を強化することが重要だとしている。


経済産業省文部科学省厚生労働省の共同執筆による日本製造業の報告書「2020年版ものづくり白書」とな…
昨年時点で経済産業省の方が熱く語っていますね。*2
国策がこうした方針ですから、民間がその影響を受けるのは必然ですし、今後世の中のトレンドになるのは間違いないですね。
「2020年版ものづくり白書」*3の内容を全て紹介するのは骨が折れそうなので、現在経営学分野で最も注目されている理論である、カリフォルニア大学バークレー校教授のディビット・ティースが提唱する「ダイナミック・ケイパビリティ」についてを今回のテーマにしたいと思います。


「ダイナミック・ケイパビリティ」に関連する事項についてご紹介します。(非常に長いですが、ご了承下さい。)*4 *5 *6 *7 *8 *9 *10

ポーターの「5つの競争要因モデル(ファイブ・フォース・モデル)」
1. 新規参入の脅威
潜在的ライバルが多数存在するならば、競争圧力は強くなるので、価格と利益は低下する。
2. 同業者間の敵対関係
ライバル企業が多数存在するならば、競争が激しくなるので、価格と利益は低下する。
3. 代替品の脅威
潜在的な代替品が多いならば、競争圧力は強くなるので、価格と利益は低下する。
4. 買い手(需要者)の交渉力
買い手の交渉力が強いならば、競争圧力は強くなるので、価格と利益は低下する。
5. 売り手(供給者)の交渉力
売り手の交渉力が強いならば、部品原価が上昇するので、利益は低下する。

ポーターの競争戦略論:
1. コスト・リーダーシップ戦略
より効率的なコスト構造のもとに、より安い製品を生産販売して、価格上で競争優位を確立し、競争に勝ち抜く戦略。
2. 差別化戦略
ターゲットとなる業界内で不完全競争を意図的に生み出し勝ち抜くために、顧客が他の製品よりも価値があると認める製品を提供するといった、業界内の他社と明確に差別化できる製品を生産販売していく戦略。
3. 集中戦略
2つの戦略を産業全体に適用する、あるいは特定セグメントに集中して展開していく戦略。

ポーターの競争戦略論の限界:
ポーターの競争戦略論の本質は、業界や産業の競争状況が企業の戦略行動を決定するという状況決定論です。
ポーターによると、コスト・リーダーシップ戦略と差別化戦略には経済的なトレード・オフが存在することから、その両立は困難です。
また、コスト優位と差別化優位の両方を追求すると、「中途半端」になり、コスト優位を追求する企業よりもコスト低下できませんし、差別化を追求する企業よりも差別化できません。
しかし、同じ状況、同じ業界におかれているにもかかわらず、成功している企業群の資本利益率や戦略的行動は異なっています。
また、産業の特徴が企業の特徴的な戦略行動や業績を決定するという因果命題が統計的に実証されていません。
さらに、パソコン業界のように、初期は2つの戦略グループに明確に分かれていましたが、やがて業界全体が両方の戦略を追求するようになった事例や、ヨーグルトのダノンのように、品質も価格も中程度なのに売れているという「中途半端」が良い場合もあります。

資源ベース理論:
ワーナーフェルトの資源ベース理論
商品間の表面上の相互関係あるいはシナジー効果ではなく、その背後にある共通の企業固有の資源にもとづいて多角的戦略を展開することが重要です。
ルメルトの資源ベース理論
ある特定の産業に「参入障壁」が存在するように、同じ産業内にも特定の異なる戦略グループが存在し、そのグループ内の各企業が持つ特定の資源が競争優位を生み出しており、そのような特定の資源は同業他社が模倣することが困難なので、固有の資源は「移障壁」となり、「隔離メカニズム」として機能しています。
バーニーの資源ベース理論
企業の持続的優位性を左右する要因は、企業が保有する固有のケイパビリティ(能力)であり、それは稀少かつ模倣に多大なコストがかかるので、企業戦略の一環としてこのケイパビリティの開発を目指す必要があります。そうした資源・ケイパビリティの必要条件として、「VRIN」と呼ばれる経営能力の必要条件が挙げられます。
1. Value:価値
ケイパビリティが顧客に対して価値を直接的・間接的に創造しているか
2. Rarity:稀少性
そのケイパビリティが業界内では希少資源であるかどうか
3. In-Imitability:模倣不可能性
そのケイパビリティを他社が模倣することが困難かどうか
4. Non-substitutability:代用不可能性
そのケイパビリティは代用できるかどうか

コア・コンピタンス
他社が真似できない、経営戦略上の根源的競争力につながる企業の中核能力。
コア・コンピタンスのイメージは、様々な生産技術を統合調整する方法・能力、複数の技術的な流れを統合する能力、多様な事業の集まりをつなぎ合わせる結合剤(技術)だとされます。
特にコア・コンピタンスとは、「未来に一番乗りするための特技能力」であり、以下のような性質を持つ技術や技能などの集合体であるとも言われています。
1. 顧客満足を喚起するもの。
2. 自社に固有であって他社にとって模倣しにくいもの。
3. 多面的・多角的に活用できるもの。

資源ベース理論の限界:
1. 資源ベース理論は物理的世界を対象として展開される戦略であり、クラウゼヴィッツ流の直接アプローチ戦略の一種に過ぎません。
また、論者によって「資源」、「資産」、「リソース」の定義や条件が異なり、共通の認識や定義が形成されておらず、資源、リソース、組織能力、コア・コンピタンス、ケイパビリティなどの基本的用語自体も統一化せれていないので、資源ベース理論は未だ理論ではなく、「リソース・ベイスト・ビュー」に留まり、「経験科学的理論」というよりも、単なる「ものの見方」、「考え方の一つ」という程度の知識に過ぎません。
このことは、理論にとって都合の悪い事例や事実が出てきた場合、考え方や用語のあいまいさをうまく利用すれば、容易に言い逃れができるということを意味し、ゆえにこの理論は有益な批判を無視してドグマ化し続け、我々の認識を進歩させない可能性があります。

2. 自分で競争優位を生み出す資源を形成し確定して生き残るという考えは、用・不用の原理に基づいて自分で進化するというラマルク主義に基づくものですが、固有の資源は自分ではなく環境によって決定されます。
つまり、「偶然」や「運」という要素が入るので、成功・勝利するための絶対的な資源など存在しないのです。

3. 資源ベース理論では、短期的には競争優位に立てるが、⻑期的には固有の資源や能力は逆に硬直性を生み、コア・リジリティ(硬直性)になるので、持続的に競争優位に立てません。
特定の資源やケイパビリティに固執すると、逆に変化する環境に適応できず、企業は自滅することになります。

オーディナリー・ケイパビリティ:
与えられた枠組みの中で利益最大化する能力、技能適合力を高める能力、効率性の追求です。

ダイナミック・ケイパビリティ
ダイナミック・ケイパビリティ論とは、カリフォルニア大学バークレー校教授のディビット・ティースが提唱した経営理論で、技術・市場といった環境変化を認識し、それに対応して利益を生み出すために、既存の資源を自由に再構成しオーケストレーションする、より高次の「変化対応的な資源再結合能力」、進化適合力を高める能力、付加価値の増加(生産性増加)とされています。
つまり、新しいものをゼロから作る能力ではなく、既存の資源、知識、技術を再構成、再利用、再結合して相対的優位性(差異)を形成する高次のメタ・ケイパビリティなのです。

ダイナミック・ケイパビリティに必要な3つの能力
1. Sensing感知
変化・危機を感知する能力
2. Seizing捕捉
機会を捕捉し、資源を再構成して優位性を得る能力
3. Transforming変容
優位性を持続可能なものにするために組織全体を変容する能力

共特化の原則
共特化の原則とは、企業内外の2つ以上の複数の資産を統合・融合することで補完的結合が起こり、あたかも化学反応のように多大なメリットが得られるということです。
単独で利益を生み出すシステムではなく、他社を取り込み、みんながプラスの利益を生み出すようなビジネス・エコシステムを形成することが重要です。

高い企業変革力(ダイナミック・ケイパビリティ)を発揮してプロセス改革を行い、様々な環境変化に柔軟に対応し、実力を伸ばしてきた事例として、「2020年版 ものづくり白書」では、富士フイルムダイキン工業の事例が紹介されています。*11

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「「2020年版 ものづくり白書(令和元年度 ものづくり基盤技術の振興施策)「概要」第1章 第2節 不確実性の高まる世界の現状と競争力強化第1章 第2節 2. 企業変革力(ダイナミック・ケイパビリティ)の強化②」(経済産業省 厚生労働省 文部科学省)(https://www.meti.go.jp/report/whitepaper/mono/2020/honbun_pdf/pdf/gaiyo.pdf)を加工して作成

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「「2020年版 ものづくり白書(令和元年度 ものづくり基盤技術の振興施策)「概要」第1章 第2節 不確実性の高まる世界の現状と競争力強化第1章 第2節 2. 企業変革力(ダイナミック・ケイパビリティ)の強化②」(経済産業省 厚生労働省 文部科学省)(https://www.meti.go.jp/report/whitepaper/mono/2020/honbun_pdf/pdf/gaiyo.pdf)を加工して作成

多元的世界観:
物理的世界
物質物体、身体、紙としての本、貨幣増減、資産増減などが事例として挙げられ、それらは五感でアクセスできる、心身一元論=唯物論に基づいた客観的世界です。新古典派経済学に基づく戦略論(直接アプローチ)
心理的世界
感情、欲望、心的状態、心理プロセスなどが事例として挙げられ、それらは個々人のみがアクセスできる、心身二元論に基づいた主観的世界です。心理経済学、行動経済学に基づくアプローチ(間接アプローチ)
知性的世界
知識、理論、技術、情報、観念、権利などが事例として挙げられ、それらは知性を持つすべての人が自由にアクセスできる、心身多元論に基づいた客観的世界です。取引コスト理論に基づく戦略論(間接アプローチ)

立体的大戦略(CGS:キュービック・グランド・ストラテジー):
物理的世界への直接的アプローチ、心理的世界への間接的アプローチ、知性的世界への間接的アプローチを組み立て、包括的に実行し、体系的に展開するアプローチ。
同時進行型 CGS
三つのアプローチを同時に展開する。
時間差重層型 CGS
三つのアプローチを時間差でたたみかける。
時間差単層型 CGS
三つのアプローチを時間差で代替的に展開する。
人間は限定合理的なので、CGSは不完全であるし、三つの実在世界の動きに適切に対応しているとは限らないし、時間とともに乖離する可能性があります。またCGS自体が不完全であるとともに、三つの世界自体も変化します。
よって、CGSのもとに永続的に生き残るためには、CGSをめぐって絶えずクリティカルな議論が必要です。
事前に自己矛盾していないか、事後的に事実と矛盾していないか批判的に議論し、問題(矛盾)を解決(排除)することで進歩します。

マネージング・フロー:
戦略を批判的に議論し、絶えず変化し続ける組織=フロー状態を維持する組織は、一見不安定な組織ですが、変化する世界に安定的に対応でき、進化的に問題が移動し、不条理を回避できる組織なのです。
それに対し、批判的議論のできない閉ざされた組織=変化のない固定的組織は、一見安定していますが、変化する世界との乖離を拡大させ、退化的に問題が移動するので、不条理に陥り、淘汰される組織です。

いま日本企業に真に必要なのは、オーディナリー・ケイパビリティに基づく株主利益重視経営ではなく、付加価値生産性、売上高、そしてGDPを高めるような変化対応自己変革能力、つまりダイナミック・ケイパビリティ・ベースの経営が必要なのです。


長々と書いてきましたが、まとめますと、生物は常に変化し続けなければ淘汰される、生き残りたければ変化し続けろということですね。
今回ご紹介した「ダイナミック・ケイパビリティ」という考え方が、皆さんの日々の仕事・生活の一助になれば幸いです。
まだまだコロナも終息せず厳しい世の中ですが、変化に強い人間であり続けるために、頑張っていきましょう!!!!!

*1: 「「ものづくり白書2020年版」公開、「企業変革力」がカギ~」、オートメーション新聞、2020-06-03、 www.automation-news.jp、(参照 2020-06-27)

*2: 「デジタル化の意義は「ダイナミック・ケイパビリティ」の強化にある —「Smart Factoryセミナー2019」レポート3」、IoTNEWS、2019-10-11、 iotnews.jp、(参照 2020-06-27)

*3: 「2020年版 ものづくり白書(令和元年度 ものづくり基盤技術の振興施策)「概要」」、経済産業省 厚生労働省 文部科学省、2020-05-29、 https://www.meti.go.jp/report/whitepaper/mono/2020/honbun_pdf/pdf/gaiyo.pdf 、(参照 2020-06-27)

*4: 菊澤研宗(2008), 『戦略学―立体的戦略の原理』, ダイヤモンド社

*5: 菊澤研宗(2016), 『組織の経済学入門 改訂版』, 有斐閣

*6: 菊澤研宗(2018), 『ダイナミック・ケイパビリティの戦略経営論』, 中央経済社

*7: 菊澤研宗(2019), 『成功する日本企業には「共通の本質」がある 「ダイナミック・ケイパビリティ」の経営学 』, 朝日新聞出版

*8: 菊澤研宗, 「ダイナミック・ケイパビリティとは何か」, DIAMONDハーバード・ビジネス・レビュー, www.dhbr.net , (参照 2020-06-27)

*9: 菊澤研宗, 「ダイナミック・ケイパビリティと経営戦略論」, DIAMONDハーバード・ビジネス・レビュー, www.dhbr.net , (参照 2020-06-27)

*10: 菊澤研宗, 「ダイナミック・ケイパビリティ論をめぐる2つの問題」, DIAMONDハーバード・ビジネス・レビュー, www.dhbr.net , (参照 2020-06-27)

*11: 「2020年版 ものづくり白書(令和元年度 ものづくり基盤技術の振興施策)「概要」第1章 第2節 不確実性の高まる世界の現状と競争力強化第1章 第2節 2. 企業変革力(ダイナミック・ケイパビリティ)の強化②」、経済産業省 厚生労働省 文部科学省、2020-05-29、https://www.meti.go.jp/report/whitepaper/mono/2020/honbun_pdf/pdf/gaiyo.pdf、(参照 2020-06-27)